2017年1月、クラブW杯のレアル・マドリード戦で2得点を決めるなどして注目された柴崎は、スペイン、ラ・リーガでの挑戦をスタートさせている。テネリフェを皮切りに、ヘタフェ、デポルティーボ・ラ・コルーニャ、レガネスと、その主戦場は2部だった。そのことを否定的に捉える人もいるかもしれない。 しかしながら、7シーズンもスペインでプレーできたこと自体、称賛に値する。実際、これまで日本代表レベルの選手たちが数多くラ・リーガに挑んできたが、ほとんどが1、2年で"構想外"と返り討ちに遭っている。スペイン2部で昇格をかけて戦うシーズンは、日本で考えられている以上に濃密である。J1やスコットランドリーグ1部よりも、生き残るための技や強さが問われる。 柴崎はそこで、自身の価値や可能性を示してきた。さもなければ、2部とはいえオファーは来ない。 「ガク(柴崎)の技術センスは天才的」 メディアでもそう言われており、そのスキルは高い評価を受けている。 敵陣で前を向いてボールを受けられたときの柴崎は、スペインでも無双に近かった。コントロール&キックは抜群で、ビジョンも豊富。それは1部でも通用していた。賢い選手だけに、最善の選択で敵に最大の打撃を与えられる。ヘタフェ時代にFCバルセロナに浴びせたゴールは今も語り草になっている。 「監督にとっては、めちゃくちゃ"おいしい選手"だよ。格別な選手。サッカー選手として、オールマイティーな能力を持っているから」 デポルティーボ時代の指揮官だったフェルナンド・バスケス監督は名将の誉れ高いが、柴崎についてそう語っていた。
「技術だけではない。ガクはフィジカル的に堂々としているし、ダイナミズムも持っている。そして頭脳明晰だ。おかげで、あらゆるプレースタイルに適応できる。ボランチ? 完璧だね。右インサイドハーフ? 左インサイドハーフ? 完璧だ」
手放しの賛辞だったが、当時のチームは2部から3部に降格している。「どこもできる」ということは、「どこもできない」となる可能性がある。このあたりが、柴崎の明暗を分けたか。
あえて分類したら、柴崎はクラシックな10番タイプだろう。FWに近いポジションで、自由にパスをしたら破格の才能の持ち主と言える。ただし、そのゾーンではかなりのバトルが求められ、彼にはたとえば鎌田大地(ラツィオ)のような速さも強さもなかった。
そこでボランチでの起用が定着、プレーメイカーとしては高いレベルを誇った。しかし、今度は守備面の強度を求められると、途端に弱さが見えた。五分五分のボールの取り合いでは劣勢になるケースが多く、背後を見ながらコースを切って侵入した敵を潰すような狡猾さもない。受け身になるチームでは、起用法が難しかった(サイドでもワンポイントで起用されていたが、崩し役タイプでもなかった)。
「チームを勝利させるボランチ」
スペインではボランチに、チームに勝ち星をつけられるパーソナリティが求められる。自らゴールすること以上に、チームを機能させ、周りの選手の実力を発揮させられるか。そのためには、守備は基本となる。自らの持ち場で負けない、守備ラインを破られない。そこでの精強さによって、チームの軸となれる。
チームの結果と連動してボランチは評価されるのだ。
柴崎はありあまる才能を持ち、そのプレーはエレガントかつクレバーで、多くの監督に用いられてきた。しかし、チームの結果には結びつかなかった。それが7シーズンも続けられた理由と言えるし、7シーズンで終わった理由とも言える。テネリフェからヘタフェに一度、"個人昇格"したが、その後は所属チームを1部に導くことができず、最後はスペイン挑戦を断念することになった。
しかしあらためて、7シーズンのスペイン挑戦は誇るべきだろう。2部でこれだけ試合を重ねた日本人選手は過去にいない。厳しい勝負に挑むことは、2018年ロシアW杯での好プレーに結びついていた。その後も2022年カタールW杯まで日本代表に選ばれる要因になり、挑戦の正当性を示したと言えるだろう。
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